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Summer No.29




第4回国際協力市民講座より
「青少年の国際協力・国際交流」


 平成13年6月9日、16日、23日の3回にわたって第4回国際協力市民講座が高知グリーン会館にて行われました。国際協力や国際理解教育を実践している先生方を迎えて行われたパネルディスカッションの要旨をご紹介します。



ラオス・バンカーム小学校での運動会

パネリスト

高知商業高等学校教諭  岡 伸二
「生徒会活動をとおしてラオスに小学校を建設」
葉山村地域教育指導主事 山岡 彰彦
「インドシナ地域へスタディツアーを実施」
国際協力事業団四国支部 菊地 太郎
「外務省調査研究員をへてJICA職員へ」
(民間企業から出向)

コーディネーター

高知県国際交流協会    前田 正也

JICAタイ事務所訪問


前田 8年間、ラオスとの交流を続けてきて得たものは?


「サバイディラオス交流物産展」(高知大丸)

 一つはラオスの子どもたちやラオス及び日本国内で協力してくれる人たちとのつながりができたこと、もう一つは生徒がラオスとの交流活動をとおして自分の生き方を見つけたことです。私もラオスに行ったことがきっかけで自分自身の生き方を見つめ直すようになったし、家族への愛情も増して子どもに対しても大らかな見方ができるようになりました。

前田 どうしてラオスなのでしょうか?

 自給自足で成り立っているが故にのんびりしているラオスを訪れると、「日本で忙しい毎日を送っていて幸せなの?」と問われているような気がします。モンゴル、中国、ベトナム、タイにも行きましたが、やはり自分の幸せ観を問われたという意味で「ラオスでなければ...」という思いが強いですね。

前田 ラオスを世界から見るとどういう国なのでしょうか?

菊地 ラオスはASEAN諸国の中でも、ミャンマーと並んでGDP(国内総生産)の低い国です。日本からの援助額もアジアの中では大きな割合を占め、援助の分野も教育・医療・経済・インフラと多岐にわたっています。その理由の一つとして考えられるのが、ラオスは親しみやすく協力しやすい国民性を持った国だということです。JICAのプロジェクトも順調に進んでいますし、国として日本と良好な関係にあると言えます。草の根レベルでの交流もしやすいんですね。

前田 高知で早い時期に高知商業の活動が始まっていたということに対してどんな感想を持っていますか?

菊地 四国からの国際協力の発信は活発に行われているという印象を持っていましたが、このような自立性を持った活動が高校生を主体にして取り組まれているということを知って驚きました。JICAとしても地域からの国際協力の発信に対して積極的に協力していきたいと考えています。

前田 生徒会活動をとおしていろいろな賞をもらったと聞いていますが。


ラオス国営マーケットでの仕入風景

 高知商業では生徒に論文やエッセイコンテストへの応募を奨励したり、様々な場で発表の機会を与えるようにしています。その結果、今までいろいろな賞をいただきました。例えば、読売新聞社主催のエッセイコンテストでは最優秀賞を受賞しましたし、JICAの高校生を対象としたエッセイコンテストでは準特選を獲得しました。また、商業教育の全国大会では最優秀賞を、ラオスでの活動の様子を紹介したビデオは下中財団賞を受賞しました。  
「募金で学校を建てた。それを現地に見に行った」という話は全国にころがっています。現地に赴き買い物をして、それを商店街で売っている。結果として商店街が潤い、学校も建ててしまっている。この仕組みがユニークで、評価されているんだと思います。

前田 岡先生の個性と能力に加えて、人事異動のない高知商業という環境や高知ラオス会の存在も大きいのでは。

 高知ラオス会というコアになるNGOがなければこの活動はできませんでした。現地で小学校をどういうふうに建設するか、県庁とどう交渉するか。こういったことは全て高知ラオス会におまかせしてあります。生徒を前面に押し出してくれて「生徒たちが頑張っている」という形で影にまわってサポートし、育てていくという立場でたずさわってくれている高知ラオス会の存在なしでは、本校の活動はありえませんでした。高知ラオス会が現地での人と人との交流に道をつけてくれ、私たちがその道を歩かせてもらっていることに大変感謝しています。

前田 教員の移動がある公立学校で国際理解教育を推進するにあたって大切なことは何ですか?


タイ食品総合卸売市場視察

山岡 大切なのは体験した人間をいかに活性化できるかということです。体験した人間にエンジンとして引っ張っていける可能性があるのです。しかし、エンジンとなる教師が移動してしまえば、それまでいくら活発な活動をしていたとしても自然と衰退していってしまいます。移動がある。これが絶対的な義務教育の怖さですね。

前田 JICAの立場として、どんな協力をしていきたいとお考えですか?

菊地 JICAでは、学生を対象にしたエッセイコンテストや、青年海外協力隊OBやJICA職員などを地域や学校に講師として派遣するサーモンキャンペーンを含めた開発教育に力を入れています。これからは国民一人ひとりに国際協力に対する理解、正しい認識、大きな希望を持ってもらわなければ国際協力が成り立っていかなくなるのではないでしょうか。これまでやってきた国際協力事業がいかに我々市民の生活に役立っていて、日本という国にどれだけ貢献しているのかということを正しく速やかに、そして適切に開発教育をとおして伝えていきたいと思っています。

前田 お金をかけてまで途上国に行く価値はあるのでしょうか?


植物侵蝕の進むアンコールワット遺跡群

山岡 葉山村では1998年から毎年、東南アジアに子供たちを派遣しています。現地では、大臣や日本大使を表敬訪問したり、青年海外協力隊の活動現場を視察したり、世界遺産を見学したりと、さまざまな体験をすることができます。ごみを拾いそれを売って生計を立てている子どもたちや、現地の人々のために頑張っている青年海外協力隊員を自分の目で見ることは強烈な印象として彼らの心に残ります。そして、テレビや新聞で現地のことが報道されると、それを身近なこととして捉えられるようになるのです。
 一昨年、当時中学一年だった教え子から「先生とあの時出会ってラオスの話を聴いていなかったら、今の私はありませんでした」という内容の手紙が届きました。彼女は中学卒業後、高知商業に入学して生徒会に入り、ラオスにも行きました。少しでも早い時期に途上国の様子を知れば、それだけ国際協力に関心を示す子どもが増えると思います。また、幅広い視点から物事を見られるようになるためには、途上国だけに限定するのではなく、いろんな国の情報を子どもたちに与えてあげることも大切だと思います。

菊地 私は難民キャンプで劣悪な状況の中でも困難にめげず笑顔をふりまいて一生懸命生きている子どもたちを見てきました。私でもその笑顔に何か報いることができるのではないかと思ったことが、現在の職業についた大きな要因の一つです。自治体やNGO団体が主催するスタディツアーやODA民間モニターなど、一般の方が途上国の国際協力の現場に行く機会も増えました。ぜひ、自分の目で見て、感じてほしいですね。

前田  高知商業の成果は現地に行ったから...と言い切れるのでしょうか?

 一時的な意味では現地に行った子どもがリーダーになるというのは確かですが、それをどう伝えていくかが今の高知商業の大きなポイントになっています。
 先日、高知県内の過疎地域にある廃校前の小学校の最後の運動会を見に行きました。そこには、たった一人の生徒のためにたくさんの地域住民が応援に来ていました。それを見た時、すごくラオスにつながる部分があるなと思ったんです。生徒がラオスに行って感動するものは日本にもあるし、高知にもあるし、地域にもある。これを見失ってはいけないと運動会を見て思いました。目がキラキラしている子どもたちは高知にもいるんです。
 そこで地元に目を向けてみると、そこには経営がままならず大変な状況の商店街があるわけです。ラオスに行ったことによって、高知商業とラオスと商店街の結びつきをどう捉えることができ、生かすことができるのか。それを今考えて実践しています。

前田 もし一億円をあなたの夢に使えるとしたら、どう使いますか?

 バーチャルの株式会社を本物の株式会社にしたいですね。高知にラオス商品の販売会社を作り、ラオスに近代設備の整った工場を作って世界に通用するようなセンスの良い伝統工芸品を生産するんです。ラオスの伝統工芸を守りつつ、私は会社の社長に就任して左うちわで生活できるようになる(笑)。そして、ラオスも豊かになり、高知商業からどんどん優秀な生徒を雇って就職難も解決できる!


カンボディア・シェムリアップの地雷博物館

菊地 JICAは邦人の安全確保という観点から、なかなか直接的に難民支援に協力できないので、難民キャンプや人道支援の分野で使いたいと思います。具体的には食料や携行保水液の配布、注射針の購入などです。また、日本は地雷を 除去する技術を持っているので、それを人道上生かすための技術開発にも使いたいですね。

山岡 まず、多くの子どもに途上国の様子を見せる。そして、教員が教えられないことを教えられるプロを雇います。子どもたちも世界を見たり体験した見識ある大人から学んだ方が結局はためになるし、成果も出ると思うんです。

前田 すばらしい人材を発掘し、その人の能力を開発し活用していくことも国際交流の一つだということを教えていただきました。皆さんのご活躍をお祈りしています。

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